地球温暖化による平均気温の上昇とともに、年々高まっている熱中症のリスク。東京消防庁管内のデータによると、令和5年までの過去5年間の6〜9月に、27,969人が熱中症で救急搬送されています。
大人にとっても危険な熱中症ですが、子どもの方がより発症しやすいことをご存知でしょうか?自分で予防ができず、症状があっても訴えるのが難しい乳幼児を熱中症から守るためには大人による予防が重要です。
本記事では、5つの熱中症予防ポイントをまとめています。また、症状や受診の目安、応急処置も解説していますのでぜひ参考にしてくださいね。
乳幼児は大人と比べて熱中症になりやすく、重症化しやすいと言われています。なぜなら体温調整機能、特に汗をかく機能が未発達で体の外へ熱を逃しにくいという特徴や、体内の水分の割合が高いために外気温の影響を受けやすいという特徴を持っているからです。
子供は大人よりも体重に比べて身体の表面積が広いため、気温の影響を受けやすいです。また、身長が低い分、地面に近いため、照り返しの影響を強く受けます。そのため、気温が32度の時、子供が感じている温度は35度といわれています。大人が体感しているよりも、高い気温の中で子どもは過ごしているのです。
また、子どもは自分で熱中症対策をすることが難しいです。自分で体調の変化を訴えられないことがあるため、大人による予防が重要になります。
まだ意思疎通が難しい乳児や、遊びに夢中になってしまいがちな幼児は、気付かぬうちに熱中症になってしまう危険性があります。子どもの熱中症を未然に防ぐために、大人が実践すべき熱中症対策のポイントを5つご紹介します。
自力で移動できない乳幼児を暑い環境に置き去りにするのは非常に危険であるため、細心の注意を払いましょう。特に、炎天下の車内には、数分でも絶対に置き去りにしないでください。
車内のように閉ざされた空間でなくても熱中症になってしまう危険性は大いにあります。
就寝時の環境も子どもが暑くならないように整えましょう。子どもの場合、寝ているように見えて熱中症によりぐったりしている恐れがあります。エアコンで室温を下げたり、体に直接風が当たらないようにしつつ扇風機を回したりするなど、工夫と確認をしましょう。
体内の熱を冷ますため、冷たい飲み物を飲ませましょう。体が一度に蓄えられる水分量が定まっているという点や、冷たい飲み物の大量摂取は胃に負担をかけてしまうという点で、一度にたくさん飲ませるのではなくこまめに水分補給をさせることが重要となります。のどの渇きは脱水症状の始まりであるため、のどが渇いたと子どもが自覚する前に水分補給をさせるという点に注意してください。
飲ませる飲料の種類は水や麦茶で問題ありませんが、子どもが大量に汗をかいている場合は、イオン飲料や経口補水液などの塩分も同時に補給できる種類を選びましょう。
外出前に気温や湿度をチェックしましょう。また、環境省の熱中症予防情報サイトで掲載されている「暑さ指数 」や「熱中症警戒アラート 」の参照によって、外出中であっても危険性を把握できます。
「クーリングシェルター」や東京都の「TOKYOクールシェアスポット」 などの、熱中症対策のために解放されている涼みどころに関する情報収集も有効です。外出先の周辺で提供されていないか確認し、休憩時に活用してみましょう。
令和5年の都内の熱中症の発生場所は、住宅等居住場所が全体の4割以上を占めていることから、屋内であっても決して油断できないとわかりますが、やはり外出時、特に外遊びをする際は、より一層注意を行き届かせる必要があります。
通気性のいい服を着せ、帽子をかぶせて直射日光が当たるのを防ぎましょう。着用が逆効果になることを防ぐため、帽子も通気性の良い素材を選ぶのがポイントです。
乳児でベビーカーに乗る場合は、首の後ろに冷却枕や保冷剤を敷くと体温上昇を防止できます。なお、額に貼った冷却シートがずれて赤ちゃんの鼻や口を覆って窒息してしまったり、首に巻くタイプの冷却グッズは乳児の首を絞めてしまう恐れがあるため、いずれも乳児への使用はおすすめしません。
万が一、子どもが熱中症になってしまった場合の応急処置をご紹介します。
まずは、涼しい場所で寝かせて、風を送るなどして体を冷まします。寝かせる際は、頭を低くして衣類を緩めるようにしましょう。そして濡れタオルや保冷剤を使用し、頭とともに、太い血管のあるわきの下や首筋、太ももの付け根などを冷やします。また、イオン飲料を少しずつ飲ませて、水分と塩分を補給させます。意識がはっきりとしていない場合や、吐き気が収まっていない場合の水分補給はさせないようにしましょう。
風邪と勘違いして体を温めてしまうと悪化してしまうため、症状を混同しないように注意が必要です。様子を注意深く観察し、症状に応じて病院での受診や救急搬送を検討してください。
熱中症は、軽症で回復するものもあれば、重症の場合には救急搬送を必要としたり後遺症が残ったりします。最悪の場合は死に至るケースもありますが、正しい知識を身につけて対策することで予防できる病気です。
子どもは大人と体感温度が異なりますし、自分で症状を自覚して訴えたり予防したりすることが難しいため、そばで見守る大人による予防が大切です。子どもに苦しい思いをさせないためにも万全の熱中症対策で、子どもを熱中症から守りましょう。
東京都の熱中症対策については、こちらをご覧ください。
東京都熱中症対策ポータルサイト
緑園こどもクリニック 院長
山中龍宏先生(小児科医)
ベビーカーに子どもを乗せて移動していると、しばらく子どもの様子を見られないことがあります。炎天下の道路は陽の照り返しが強く、子どもが熱中症になっている場合がありますので、数分おきに子どもの様子をチェックしてください。また、チャイルドシートに座ってよく寝ているからと、自動車の中に子どもを残しておくと熱中症になることもあります。数分でも子どもだけを自動車内に残してはいけません。また、プールで泳いでいても熱中症になることがあります。
専門家プロフィール
山中龍宏先生
小児科医・緑園こどもクリニック 院長。プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことをきっかけに、39年にわたって子供の事故予防に取り組む。2014年より特定非営利活動法人 Safe Kids Japanを設立。理事長を務める。
back number