子どもは成長と共に行動範囲が広がり、好奇心も旺盛になってきます。それに伴って、転落・転倒事故のリスクも高まります。子どもの転落・転倒事故は、一瞬の隙に起こり、場合によっては命にかかわる重大な事故につながります。
転落・転倒事故を防ぐためには、子どもの発達段階に応じた適切な環境づくりによる対策が必要です。本記事では、子どもの転落・転倒事故の実態や特徴を紹介するとともに、具体的な事例や予防策をお伝えします。
東京消防庁によると、0歳から5歳までの乳幼児が、平成30年からの5年間に救急搬送された事故のうち、「落ちる」事故が最多となっており、次いで「ころぶ」事故は2番目となっています。
事故種別ごとの救急搬送人員と中等症以上の割合
※事故種別が「その他」、「不明」を除く
(資料)東京消防庁「救急搬送データから見る日常生活事故の実態 令和4年」を基に作成
なお、子どもが住宅などの窓・ベランダから墜落するいたましい事故はしばしば報道されており、同じく東京消防庁によると、令和元年からの5年間で65人が救急搬送されています。月別で見ると、5月が最も多く、次いで10月に多く発生しています。
住宅等の窓・ベランダからの墜落による月別救急搬送人員(令和元年~令和5年)
1)東京都のうち、稲城市、島しょ地区を除く地域
2)令和5年中の数値は速報値
3)1階からの墜落を除く
(資料)東京消防庁「こどもが住宅等の窓・ベランダから墜落する事故に注意!」を基に作成
参考資料
適切な予防・対策には、事故の特徴を把握することが重要です。
東京消防庁によると、乳幼児の「落ちる」「ころぶ」事故は、主に「住宅等居住場所」で起きています。
成長・発達段階別の転落事故発生の多かった要因(上位5位)
(資料)東京消防庁「救急搬送データから見る日常生活事故の実態 令和4年」を基に作成
※その他の家具 … テレビ台、棚等
(資料)東京消防庁「救急搬送データから見る日常生活事故の実態 令和4年」を基に作成
0歳児の場合は、ベッドからの転落、人が抱いている状態からの転落・転倒が多く見られます。1歳になると、歩く、走る、といった行動ができるようになるため、階段や椅子からの転落・転倒が増えてきます。2歳児では、階段に加えて自転車の補助椅子からの転落も目立ちます。3歳~5歳になると、運動能力も高くなり行動範囲が広がるため、事故種別のうち転倒事故が最も多くなります。
では、こうした子どもの事故を未然に防ぐにはどうすればよいのでしょうか。
転落事故と転倒事故に分けて、予防策を説明します。
まずは、子どもの転落事故への対策について見ていきましょう。親が子どもを見守り続けることは実際には難しいため、事故を防ぐには、目を離してしまった場合でもリスクを軽減できる環境づくりが重要です。
※写真はヒヤリ・ハットや事故のイメージであり、事後の対応策等を示したものではありません。
窓の安全対策として、子どもの手の届かない高さに補助錠を設置することが効果的です。また、窓の開き幅を制限するストッパーを使用することで、そもそもベランダへの出入りなどができないように対策することも可能です。
さらに、家具の配置にも気をつけましょう。窓際のベッドやソファ、ベランダのゴミ箱や椅子などが足場となって、窓やベランダからの転落につながる可能性があります。足場となる家具は窓から遠ざけて配置することが大切です。
階段からの転落事故を防ぐためには、セーフティゲートの設置と滑り止めマットの使用が効果的です。セーフティーゲートは、階段の上下両方に設置しましょう。滑り止めマットは階段全体に敷き詰めることで、子どもが足を滑らせて転落するのを防ぐだけでなく、万が一転んでしまった場合でも衝撃を和らげる役割を果たします。
セーフティゲート(ベビーゲート)の使用については、こちらをご覧ください。
東京都が実施した調査では、子どもの寝返りは、1秒間で20cm移動することが判明しています。そのため、ベビーベッドを使用する際は、常に柵を上げておくことが大切です。また、毎回柵が確実にロックされているか確認しましょう。
子ども用ハイチェアを使用する時は必ず安全ベルトを締めるようにしましょう。これにより、子どもがハイチェアの上に立ち上がったり、子どもが急に動いたり、椅子から落ちそうになったりした時に、大きな事故を防ぐことができます。
抱っこひもを使用する場合は、お子さまの対象年齢や成長具合に合った製品を選ぶことが重要です。不適切なサイズの抱っこひもを使用すると、子どもが滑り落ちる危険性が高まります。
短時間であっても、子どもを乗せたまま、自転車から離れたり、荷物の積み下ろしをしたりするなどの作業をすることはやめましょう。
また、乗車前に子どもにヘルメットを着用させ、シートベルトは緩みのないように装着させましょう。万一転倒してしまった際に、ヘルメットは頭部への衝撃を緩和するのに有効です。
自転車での子どもの転倒・転落事故の予防策については、東京くらしWEBでも紹介しています。
次に、転倒事故への対策についてです。研究機関が行った実験・データ分析結果によると、子どもが転倒するまでの時間は0.5秒程度といわれています。注意深く見守っていても対応できない可能性が高いため、転倒による怪我を防ぐための「環境づくり」が重要となります。
※写真はヒヤリ・ハットや事故のイメージであり、事後の対応策等を示したものではありません。
歩き方や階段の上り方、下り方を習得し切れていない子どもにとって、階段は非常に危険な場所です。前述の転落事故に加えて、転倒のリスクもはらんでいます。
また、部屋と部屋の境やベビーゲートの入り口などにある数cmの段差も、子どもがつまずいて転倒する原因になります。段差を解消するスロープの設置などによって対策しましょう。
他にも、家の中のいたるところに転倒のリスクが存在しています。
たとえば、子どもにとっては、床に散らばっている衣類やおもちゃも段差になり得ます。つまずいた時に、家具や壁、柱の角に頭をぶつけ、打撲では済まず、出血してしまう恐れがあるため、角の丸い家具を選んだり、クッションテープやコーナーガードを利用したりすることで、「角」から子どもを守りましょう。転倒の衝撃を和らげるという観点で、子どもが遊ぶ部屋にクッション性の高い床材を敷くのもおすすめです。
また転倒のはずみで、口にしていた歯ブラシがのどに刺さりにくくするための喉突き対策や曲がって衝撃を吸収する対策が施された歯ブラシもあります。
マンションにお住まいの方などが、子どもの安全確保のために次のような改修工事を行う場合、東京都の補助金が受けられることがあります。
・バルコニーに面する窓への錠付きクレセント等の設置
・転落・転倒防止等手すりの設置
・チャイルドフェンスの設置 など
条件などの詳細はこちらからご確認ください。
他にも、下記のようなガイドラインや制度があります。
子どもの安全を守るために、ぜひこうした情報をお役立てください。
子どもの転落・転倒事故を防ぐには、子どもの成長・発達段階に合わせて、「危ないところを変える」という考え方で、子どもを取り巻く環境そのものを変えていくことが大切です。これまで紹介してきた予防策とあわせて、以下についてもご確認ください。
東京都こどもセーフティプロジェクトでは、子どもを守る環境づくりについて動画で紹介しています。
東京科学大学 工学院機械系 教授
西田佳史先生
過去の事故データを分析すると、子どもは、なんでも遊具のようにして遊んでよじ登ったり、乗り越えようとします。テレビ台、ソファー、窓、柵、浴槽などのあらゆるものが対象となります。リアルタイムの見守りだけで防ぐのは不可能に近いので、たとえ、よじ登っても、大きな事故にならないように事前の対策をしていきましょう。
西田佳史先生
工学者・東京科学大学 工学院機械系 教授。人工知能やビッグデータ等を活用して人の行動や心身機能を計測し、子供や高齢者が安全な生活を継続するための技術を研究。子供の事故予防についても長年にわたって取り組んでいる。
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