子どもに鋭利なものが刺さって起こる事故には、身近な生活用品が要因となるケースも多く、日常での注意が必要です。とくに歯ブラシによる事故が多く目立っており、家庭での予防策が重要と言えるでしょう。
本記事では、子どもの「刺さる」事故に着目し、歯ブラシなど事故の原因となるアイテムやシチュエーション、その予防策について解説します。
子どもの歯みがき中に、歯ブラシをくわえたまま転倒したりぶつかったりして、のどを突く事故が起きています。東京消防庁によると、5歳以下の乳幼児が歯ブラシで受傷した事故により、令和5年までの5年間で186人が救急搬送されており、特に1、2歳で多く発生しています。
歯ブラシが刺さる事故は、のどの近くにある血管や神経を傷つけ、時には歯ブラシが脳内に達することもあります。のどの奥に刺さると、感染を起こして咽後膿瘍となります。歯ブラシが口内に突き刺さって、子どもに意識や呼吸の異変、大量出血がみられた場合は、歯ブラシを無理に抜かずに直ちに救急車を呼ぶなどの対応が必要です。
歯ブラシが刺さる事故の主な原因は、歯みがき中の転倒・転落や衝突です。1〜4歳の事例を見ると、階段やソファ、椅子などから歯ブラシをくわえたまま転倒・転落して発生するケースが多くなっています。また、歯みがき中に人や物とぶつかったり、後ろからおおいかぶさられたりして起こるケースも報告されています。
次に、歯ブラシが口内に刺さる事故を予防するためのポイントを3つ紹介します。
● ポイント1:転倒・転落、衝突が発生しない環境を整える
歯ブラシが口内に突き刺さってしまう事故を防ぐには、歯みがき中に子どもが転倒・転落しないように生活環境を整える必要があります。歯みがきをする場所の周辺は、誤って衝突したりつまずいたりするものがないように片づけましょう。「歯みがきは洗面所で座ってしようね」と場所を指定するのがよいでしょう。
また、歯磨き中の子どもの突発的な行動や、近くで遊んでいた兄弟姉妹の行動により衝突事故が起こるケースもあります。見つけたら制止し、注意しなければなりません。
● ポイント2:安全な歯みがきを習慣づける
歯ブラシを口に入れたまま、歩いたり走ったりさせないようにしましょう。幼い子どもの場合は、安定した場所に座らせて歯をみがかせることが有効な予防策になります。
● ポイント3:のど突き防止歯ブラシを使用する
細心の注意を払っていても、歯みがき中に子どもが転倒・転落したり、何かに衝突したりしてしまうこともあるでしょう。
万が一に備え、のど突き防止対策が施された子ども用の歯ブラシを選ぶことが重要です。口内に歯ブラシが刺さらないよう柄の部分にガードがついているものやリング形状等ののど突き防止歯ブラシであれば、もしものときも、のどの手前で止まります。柄の部分が曲がる歯ブラシもあります。刺さった時の力が緩和されてケガの程度が軽減されます。
また、親が使う仕上げみがき用の歯ブラシは手の届かない場所に置いて、子どもが口に入れないようにしましょう。
(画像)東京くらしWEB「乳幼児の歯磨き中の喉突き事故に注意!~注意喚起リーフレットを作成しました~」から引用
歯ブラシが刺さる事故の予防策については、東京くらしWEBでも紹介しています。
子どもの「刺さる」事故を引き起こす身近な原因は、歯ブラシだけではありません。
はしや割りばし、フォーク、ストローも、歯ブラシと同様に子どもがくわえたまま転倒・転落するなどして「刺さる」事故の原因となっています。食事中にものをくわえたまま立ち歩かないようにさせることが重要な予防策です。
そのほか、衝撃が加わったときにしなるシリコンなどのやわらかい素材のものを使用するとより安心できるでしょう。
ボールペン、鉛筆などの文具が口内に刺さる事故も起こっています。子どもが口に入れたまま歩かないようにすることはもちろん、本来口に入れないものだと教えることも重要です。子どもはカラフルな文具を見ると、惹かれて手に取ってしまいます。ボールペンや鉛筆、定規などの先のとがった文具については、子どもの目につかない場所に保管するのが最善でしょう。
食事中に魚の骨が口内に刺さり、事故につながるケースも発生しています。骨が刺さったまま自然に抜けず、摘出手術と入院を要した事例もあるため気をつけましょう。
予防策としては、幼い子どもの場合には事前に魚の骨を取り除いてあげることが重要です。魚を薄く、細かく切って骨が見えやすいようにし、ピンセットなどで取り除きましょう。骨が取り除かれた商品を購入するのもおすすめです。
また、魚のみならずしっかりと噛んで食べることや、成長・発達段階に応じて骨の取り除き方を教えることもポイントになります。
子どもの「刺さる」事故は、歯ブラシや箸などの身近なもので起きています。後遺症を残す重大なリスクがあるにもかかわらず、日常と隣り合わせの事故であるため、大人が注意深く子どもを見守るだけでなく、事故が起こらないような生活環境を整えることが大切です。口に歯ブラシなどをくわえた状態で転倒・転落しないよう、生活環境を見直すとともに、万が一転倒しても突き刺さらないアイテムを選ぶなどして「刺さる」事故のリスクを減らしましょう。
緑園こどもクリニック 院長
山中龍宏先生(小児科医)
人の身体に物が刺さった場合、危険性が高い部位は、眼、鼻、耳、口などがある顔の部分です。箸、割り箸、歯ブラシ、フォーク、鉛筆、太鼓のばちなど、尖ったものを持ったまま歩かせないことが大切です。柄の部分が曲がる歯ブラシなど、刺傷を軽くする製品を使用するとよいでしょう。綿菓子、リンゴ飴の芯は、割り箸ではなくペーパーロールにします。5歳以下の子供には耳かき棒を使わせないようにしましょう。
専門家プロフィール
山中龍宏先生
小児科医・緑園こどもクリニック 院長。プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことをきっかけに、39年にわたって子供の事故予防に取り組む。2014年より特定非営利活動法人 Safe Kids Japanを設立。理事長を務める。
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