東京消防庁管内のデータによると、令和4年までの過去5年間に3,810人が虫や動物にかまれる・刺されるといった事故で救急搬送されています。令和4年、初診時に入院を要する中等症以上と診断された患者は1割以上に上っており、決して軽視できない事故です。とりわけ夏場は、虫が活発になり多く発生し、子どもも夏休みに入り、外で過ごす時間が増える分、虫に刺されるリスクも高まるため、予防することが大切です。
本記事では、虫刺されの症状や対処法、予防法についてご紹介しますので参考にしてくださいね。
乳幼児は虫に刺される経験がまだ少ないため、症状の現れ方が大人とは異なります。刺された直後ではなく翌日以降にかゆみや腫れを発症し、症状が長引く「遅延型反応」を示すのです。成長して虫に刺される経験を重ねるにつれ、刺された直後に発症してすぐに治る「即時型反応」に移行します。
長引くかゆみに耐えきれず、刺された箇所をかきむしってしまうと、傷から細菌が入って皮膚感染症を発症する恐れがあります。体中にただれや水ぶくれが広がる「とびひ」や、熱や痛みを伴う赤い腫れを発症する「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」が代表的です。
虫刺されのリスクから子どもを守るためには、外出前の準備や室内環境の整備などの大人による事前の対策が重要です。予防のポイントをご紹介します。
草むらのある場所に出かける際は、薄手の長袖や長ズボンを着せ、靴下を履かせることでなるべく肌を隠しましょう。虫よけ加工がされたメッシュパーカーやレギンスなどの活用もおすすめです。
外出前に子ども用の虫除け剤をムラなく塗布しましょう。塗り残した部分はむしろ刺されやすくなってしまいます。塗布する際は口や目に入ってしまわないように、大人の手に出してから塗り広げると安心です。子どもが手を口に入れたり、目をこすったりする場合は、手に虫除け剤をつけないようにしましょう。また、外出時は虫の少ない場所で汗を拭き、塗り直すことも大切です。
子どもの年齢や用途によって使用できる虫除け剤は異なります。「ディート」が主成分の虫除け剤は幅広い種類の虫に対して効果を発揮しますが、神経毒性があるため6か月未満の乳児には使用不可で、6か月以降の乳児でも1日1回に抑えなければなりません。
一方「イカリジン」が主成分の虫除けは効果が限定的ですが、年齢や使用頻度に制限がないため、小さい子どもでも使用が可能です。ただし乳児は肌が荒れてしまう恐れがあるため、慎重に使用する必要があります。
家の中では虫を侵入させないように工夫することが大切です。窓やドアを開けっぱなしにしないようにして、換気の際も網戸で行うようにしましょう。
また、家に出入りするときに虫が入り込んでしまうことを防ぐために、玄関先やベランダには吊り下げ型の虫除けグッズを活用することがおすすめです。蚊取り線香や吊り下げタイプの虫除け剤を乳幼児がいる部屋で使っても問題ありませんが、閉め切った室内でたくさん使用するのは避けましょう。
肌を刺す恐れがある虫は、外遊びをする公園だけでなく家の中にも存在します。また、虫によって虫刺されの特徴や症状は異なります。どのような虫に刺されるリスクがあるかを把握することも、重要な予防法の一つです。代表的な注意すべき虫と、刺された場合の症状について説明します。
人を吸血するのは「アカイエカ」と「ヒトスジシマカ」です。屋内外や昼夜を問わず刺されやすい虫ですが、草むらや涼しい時間帯などには特に注意が必要となります。
蚊に刺されると赤みのあるふくらみやブツブツができます。患部を掻きこわしてしまうと、前述の通り、細菌が入って「とびひ」や「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」になる恐れがあります。痕がえぐられたような傷になったり、発熱したりした場合は受診が必要です。
ダニは主に家の中で発生しやすく、「イエダニ」や「ツメダニ」が代表的な室内ダニです。ダニに刺されると、かゆみを伴う皮膚の盛り上がりが発生します。ダニを寄せ付けないためにはこまめな家の掃除が必要です。
一方、マダニは山間部や草むらに生息しています。マダニに刺されると強いかゆみと赤い皮膚の盛り上がりがみられます。山間部などに出かける際は肌を露出させないように対策することが重要です。
ブヨは山間部に多く発生します。ブヨに刺されると、血が出て激しいかゆみと腫れに襲われます。また蚊と同様に、搔きこわして化膿する恐れもあります。マダニと同様に、肌を露出させないように対策しましょう。
ハチ類は秋ごろから屋外で見られます。刺されてしまうと、軽症の場合は、患部が赤く腫れて激しく痛み、人によっては吐き気を催します。重症になると口が渇き、しびれ、下痢や嘔吐、意識障害を起こしたり、アレルギー反応で特に重篤なアナフィラキシーショックを引き起こしたりする危険性があります。
ミツバチやアシナガバチなどは刺激しなければ攻撃して来ませんが、スズメバチは攻撃性が高いです。もし見かけたら、子どもを近づけさせないようにしましょう。また、黒い服は襲われやすいため、黒っぽい服は避けるようにしましょう。
ムカデは屋外で落ち葉や石の下に隠れている場合が多いです。刺されると患部が激しく痛みます。目視できる大きさの場合が多いので、見かけたら子どもを近づけさせないようにしましょう。また、室内に侵入する恐れがあるため、帰宅時に衣服や持ち物に付着していないか注意が必要です。
かゆみを発症する虫刺されの場合、患部を水で洗い流し、かゆみ止めや虫刺されの薬を塗りましょう。タオルや保冷剤で冷やすと、かゆみを抑えることができます。
子どもの爪を切り、パッチなどで保護すると、患部を掻きこわして皮膚感染症を起こすリスクを抑えられます。ただし、ガーゼなどで密閉すると、細菌が増殖してしまうため注意してください。適切なホームケアは、虫刺され跡が残りづらくするために重要です。
蚊などによる虫刺されでも、強いアレルギー症状は遅れて起きるため、注意深く経過を観察しましょう。高熱の発症や酷い腫れが起きた場合は速やかに受診し、呼吸困難や吐き気などの症状が出た場合はすぐに救急車を呼びます。
またハチやムカデなど毒性のある虫に刺されると、吐き気や意識障害などの重い症状が出る場合があります。アナフィラキシーショックの危険性もあるため、直ちに医療機関にかかりましょう。ハチなどの毒針やマダニの除去も、無理せず受診がおすすめです。
自宅での時間や、外遊びの時間を子どもにのびのび過ごしてもらうために、大人が正しい知識を身につけて、万全の対策をしましょう。たかが虫刺され、と軽視するのではなく初期の対応をすることはもちろん、そもそも虫に刺されないために予防することが何よりも大切です。
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