自動車のチャイルドシートは、平成12年から道路交通法で6歳未満の子どもに対して着用が義務づけられています。しかしながら、チャイルドシートの不使用や不適切な着用により、重大なけがにつながる事例も未だに発生している状況です。本記事では、そうした事故を防ぐため、チャイルドシートに関連する事故の要因や正しい使用方法について解説します。
警察庁のチャイルドシート関連統計によると、自動車同乗中の交通事故により、令和5年までの5年間に、全国で33人の6歳未満の幼児が亡くなりました。このうち、チャイルドシートを使用していなかった幼児は13人にのぼります。また、令和元年から令和5年のデータより、チャイルドシートを使用しない場合の致死率が、適正に使用した場合の約4.2倍になることもわかっています。
また、警察庁と一般社団法人日本自動車連盟(以下、JAFという)が令和6年5月に行った調査によると、チャイルドシートの着用率は年々上昇しているものの、全国平均で78.1%ほど。特に5歳児の着用率は低く、57.9%にとどまっています。
(資料)警察庁『子供を守るチャイルドシート』を基に作成
(資料)警察庁『子供を守るチャイルドシート』を基に作成
なお、チャイルドシートは、道路交通法で6歳未満の着用が義務付けられていますが、JAFは車内の子どもの安全をさらに高めるため、年齢ではなく体格に合わせた基準として、身長1メートル50センチ未満の着用を推奨しています。
次に、チャイルドシートの不適切な使用などにより、重大な事故につながるケースを3つに分けて解説します。
チャイルドシートを座席に固定するベルトに、緩みや通し間違いなどがあると、交通事故などの衝撃でチャイルドシートごと転落したり、車外に放り出されたりする危険性があります。
ベルトを緩めた状態で着座していると、急ブレーキなどのはずみで頭や体をドアや同乗者に、強打する危険性があります。また、保護者が子どもを抱っこして乗車する事例もみられますが、例えば時速40キロメートルの衝突では、保護者の腕に子どもの体重の30倍の力がかかるため、保護者も子どもも重とくなけがを負うリスクがあります。
チャイルドシートを使用しないなど、子どもが車内で自由に動ける状態だと、手や足をドアにはさまれたり、保護者が窓をパワーウィンドウで閉めた際に首をはさまれたりする事故につながる恐れがあります。
消費者庁イラスト集より
次に、事故の被害から子どもを守るために知っておきたい、チャイルドシートの適切な使い方を解説します。
警察庁『チャイルドシート取付け・着座状況調査結果(令和6年)』のアンケート結果によると、チャイルドシートの誤った取り付け方がみられたポイントとして以下があげられています。
(資料)警察庁『チャイルドシート使用状況全国調査結果(令和6年)』を基に作成
チャイルドシートの取り付け位置は、後部座席が推奨されています。前方座席に設置されているエアバッグは、成人の体型を前提に設計されており、子どもにはかえって被害を及ぼすリスクがあるからです。やむをえず助手席に取り付ける場合は、シートを最大まで後方に下げて使用しましょう。取り付けの際は、チャイルドシートを座席に体重をかけながら沈み込ませ、座席ベルトを引いて緩みをとるようにしましょう。また、サポートレッグの先端が床面に完全に接しているか、座席ベルトの通し方に間違いがないかなどをあわせて確認しましょう。
また、後ろ向きのタイプのチャイルドシートの取り付けの場合は、背もたれの角度を45度にします。これにより子供を事故の衝撃から守り、快適性も確保することができます。
チャイルドシートは子どもの成長段階に合わせて使い分ける必要があります。国土交通省の『チャイルドシートアセスメント2022.3』にて公表されている以下のサイズを目安に製品を選びましょう。
※対象となる体重、身長、年齢は目安です。
(資料)国土交通省『チャイルドシート安全比較BOOK』を基に作成
また、国土交通省は、チャイルドシートの安全基準を定めています。これに適合した証である「チャイルドシート安全基準マーク(Eマーク)」がつけられた製品を選びましょう。
国土交通省の「チャイルドシート安全基準マーク(Eマーク)」はこちら
乳児用・幼児用のチャイルドシートに座らせる際は、子どもの背丈にあわせて、ベルトの位置を肩の高さかそれより少し高めに調節しましょう。
学童用のチャイルドシート(ジュニアシート)の場合、ベルトが首やお腹にかからないよう注意しましょう。
なお、子どもが防寒ウェアを着たまま着用する際には注意が必要です。体を十分に固定できずに衝撃で投げ出される恐れがあるため、冬期は防寒ウェアを脱がせてから座らせましょう。
子どもがチャイルドシートを嫌がる場合は、座りたくなる習慣づけが必要です。
音楽をかけたり、お気に入りのおもちゃを渡したりするなどして、「チャイルドシートに座ると楽しいことが起こる」といった印象づけを行いましょう。
チャイルドシートは子どもの命を守る重要な安全装置です。ただし、適切な取り付けや着座ができていないと、その効果を発揮しません。交通事故などの被害を最小限に抑えるため、正しい使用方法で着用しましょう。
また、自動車のドアや窓にはさまれる事故にも注意が必要です。車種によっては、パワーウィンドウのロック機能や挟み込み防止機能などがついています。チャイルドシートとあわせて活用しましょう。
緑園こどもクリニック 院長
山中龍宏先生(小児科医)
生後7-8か月を過ぎると、ほとんどの子どもはチャイルドシートに座ることを嫌がります。いくら泣いていても、自動車に乗せるときは、チャイルドシートの着用が不可欠です。欧米では、チャイルドシートを着用していないと5万円の罰金としている国もあります。チャイルドシートをしないなら、子どもは自動車に乗せないことです。
専門家プロフィール
山中龍宏先生
小児科医・緑園こどもクリニック 院長。プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことをきっかけに、39年にわたって子供の事故予防に取り組む。2014年より特定非営利活動法人 Safe Kids Japanを設立。理事長を務める。
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