子どもの水の事故は、他人事ではありません。東京消防庁管内のデータによると、浴槽や海、河川等での事故で、令和4年中は449人が救急搬送されています。
水辺の事故は、子どもから目を離さないことが大切です。しかし、子どもから目を離さないことには限界があるため、周囲の環境を整え、事故を未然に防ぐことが重要になります。
この記事では、成長・発達段階ごとに、水辺の危険性と予防策を解説しています。子どもの笑顔を守るために、ぜひ最後までお読みください。
暑い季節になると、海や川、プールなどの水辺で遊ぶ機会が増えます。しかし、子どもにとって水難事故は、重大な事故につながる可能性が高いことを理解しておく必要があります。実際に、東京消防庁管内のデータによれば、令和4年中に浴槽や海、河川等での事故で救急搬送された449人のうち、約8割は重篤または死亡と診断されています。
厚生労働省の「人口動態調査」によると、平成28年から令和2年に発生した溺水事故のうち、0~1歳は浴槽内での溺水が多く、5歳以上は自然水域での溺水、とりわけ河川での溺水が多いことがわかっています。
水の事故を防ぐためには、「事故が起こりうる状況を作らない」ように周囲の環境を整え、事故を未然に防ぐことが大切です。子どもの成長・発達段階によって、水辺で起こりやすい事故とその予防策は異なるため、それぞれ紹介します。
なお、いずれの成長・発達段階においても、水辺で遊ぶ際のライフジャケットの着用は有効です。
ライフジャケット着用の重要性については、生活文化スポーツ局でも紹介しています。
乳幼児期は、危険を予測する能力も判断力も未発達であるため、子ども自身による危険の発見が遅れがちです。また、年齢・月齢により、身体の大きさ、身体機能・運動能力・理解能力等が変化するため、それに伴い、起こりやすい事故の内容も変化していきます。
乳幼児期は、水深が浅くても溺れる危険性があるため、浴槽やバケツなどに残った水に誤って転落し、溺水事故につながる恐れがあります。また、1歳半を過ぎた幼児期になると行動範囲が広がるため、川やため池などに落ちる事故なども発生しています。
小学校低学年になると、行動範囲が一気に広がります。水遊びの機会も増えるため、海や川、プールでの溺水の危険が増えます。
この時期は、危険を予測する能力や、自分の体力に見合った行動をとる判断力は、まだ発達段階にあります。ある程度泳げるようになり、自分の能力を過信してしまい、深い場所に進んでしまう可能性があります。そのため、具体的な行動ルールと安全に対する意識づけを教えることが重要です。
小学校高学年にもなると、自分の行動の責任を理解し、ある程度の危険予知もできるようになります。しかし、それはあくまで「ある程度」です。とくに、仲間と一緒になって水辺で遊んでいる際などには、危険を見落としてしまう可能性も考えられます。そのため、事前に水辺の危険性やルールについてしっかりと話し合い、安全意識を高めておくことが重要です。
近年は夏季に局地的なゲリラ豪雨が発生することが多いので、建設局の「東京都水防災総合情報システム」を活用してリアルタイムの降雨情報や河川水位情報を確認することも有効です。
水辺は子どもにとって魅力的な遊び場である一方、予測不能な危険も隣合せです。楽しい時間を安全に過ごすためには、大人自身の安全意識を高め、子どもの成長・発達段階に応じた事故予防策を講じることが重要です。
子どもは好奇心旺盛で、時に予測できない行動をとることがあります。そのため、「自分の子だけは大丈夫」という過信は禁物です。「子どもから目を離さないように注意する」よりも前にできる予防策を実践し、子どもたちと水辺での楽しい時間を満喫しましょう。
緑園こどもクリニック 院長
山中龍宏先生(小児科医)
鼻と口を覆うだけの水があれば、溺れが発生します。お風呂での溺れを防ぐには、2歳くらいまでの子どもがいる家庭では残し湯をしないことです。 川での溺れを防ぐには、ひざ下以上の深いところには入らないことです。海での溺れを防ぐには、監視員がいる場所で泳ぐことです。 泳ぐつもりがなくても、履いていたサンダルが川の中に落ち、それを拾いに行って溺れることもあります。 泳ぐ場合、最も大切なことはライフジャケットを着用することです。上手に浮くためには、前もって着用して慣れておく必要があります。
専門家プロフィール
山中龍宏先生
小児科医・緑園こどもクリニック 院長。プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことをきっかけに、39年にわたって子供の事故予防に取り組む。2014年より特定非営利活動法人 Safe Kids Japanを設立。理事長を務める。
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