東京都は、子供を不慮の事故から守るための「環境づくり」を優先課題と考え、関係各局が連携して取り組む新たなプロジェクトを立ち上げました。
令和3年までの過去5年間、東京都において、0歳から5歳までの乳幼児が、日常生活のケガや事故により救急搬送される件数は、毎年8千件以上になります(※)。その件数は長年変化しておらず、「転倒」「誤飲」「やけど」といった事故種別ごとに見ても変化がありません。
また、近年では、「ベランダからの転落」や「車内の置き去り」など、痛ましい子供の事故が続いています。
子供の事故を防ぐ方法として、まず見守りが思いつくでしょう。しかし、研究機関の実験・データ分析結果によると、子供が転倒するまでの時間は0.5秒程度。たとえ見守っていて駆けつけたとしても間に合わない可能性が高いのです。
また、ベランダの柵によじ登る時間は4~5歳児で7~11秒。ずっと目を離さないで見守り続けることは不可能です。
つまり、危ない点を注意喚起し、保護者の見守りに頼った事故予防策だけでは、子供の事故は防ぎきれないのです。
そこで、東京都では、保護者等による見守りを中心としたこれまでの事故予防の考え方に加え、子供の成長や行動に合わせて「危ないところを変える」という環境づくりの考え方にもアプローチする方法で子供の事故を減らすことに取り組むことにしました。
子供を主役とする「チルドレンファースト」の理念のもと、研究機関や事業者を含む産官学民で連携しながら、“「目を離さない」の前にできること” を合言葉に、東京都こどもセーフティプロジェクトを推進していきます。
緑園こどもクリニック 院長
山中龍宏先生(小児科医)
見守りだけでは限界があることを知り、子供を注意するのではなく、「子供から目を離せる環境」をつくることで、子供の様々なチャレンジを見守れる社会を一緒に目指していきましょう。
東京工業大学工学院機械系教授
西田佳史先生
事故予防の基本は、できない予防法をやろうとしないこと。いたずらに疲弊してしまいます。科学的な視点から事故が起きる原因を分析し、実行しやすく効果の高い事故予防策を考えることが大切です。
ここからは、東京都こどもセーフティプロジェクトの特徴と取り組みについてご紹介します。
プロジェクトの中心となる子供政策連携室では、社会全体で事故予防に取り組む仕組みをつくっていくため、①効果的な事故予防策の開発と普及、②年齢層別の事故予防ハンドブックの制作、③事故情報を集めたデータベースの構築を進めています。
子供の事故事例データや行動特性をAI等の最新技術を活用して分析し、効果的な事故予防策を検討していきます。開発した事故予防策は、提言としてまとめて、このWebサイトやセミナー等で情報発信していきます。
乳幼児(保護者)、小学校低学年、小学校高学年、中高生の4つの年齢区分ごとに、特徴的な事故事例やその予防策を紹介したデジタルハンドブックを制作し、事故予防策の啓発に取り組みます。
子供の事故やケガに関するデータを集約し、産官学民で利活用できるデータベースを構築します。もちろん保護者や中高生の皆さんにも、どのような事故が起こっているかをお調べいただけます。
本プロジェクトは、関係各局がそれぞれの役割を果たして、「チーム」として連携し、子供を事故から守る環境づくりに取り組んでいることも特徴の一つです。
「子育て支援・教育」「救急」「消費者安全・製品」「住まい」「交通」「インフラ・まちづくり」といった様々な部署が連携することにより、これまで各部署が取り組んできた子供の事故予防の取り組みをさらに強力に推し進めていきます。
関係各局の取り組みや、安全対策に関する情報は、以下のリンク先をご覧ください。
子供を取り巻く環境を変えるためには、子供の事故原因を分析し、予防策を考えること、予防策を実践し、効果を測定すること、その結果をまた予防策に反映することが必要です。
こうした一連の取り組みは、保護者の皆さんはもちろんのこと、大学・研究機関や民間事業者の方のご協力が不可欠です。
東京都は、皆さんと連携を図りながら、子供にとって安全な環境づくりに取り組んでいきます。
東京都では、保護者や事業者の皆さんが、子供を事故から守る環境づくりに参加いただけるよう、後押ししていきます。
これから、こちらのWebサイトやSNSで、事故予防に関する情報発信を行っていきますので、ぜひ、ご覧ください。
(※)参考:東京消防庁「救急搬送データから見る日常生活事故の実態」令和3年度版 P27
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/topics/nichijou/kkhdata/data/r3all.pdf
参考文献:西田佳史、山中龍宏編著『保育・教育施設における事故予防の実践 事故データベースを生かした環境改善』中央法規
山中龍宏先生
小児科医・緑園こどもクリニック 院長。プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことをきっかけに、38年にわたって子供の事故予防に取り組む。2014年より特定非営利活動法人 Safe Kids Japanを設立。理事長を務める。
西田佳史先生
工学者・東京工業大学工学院機械系教授。人工知能やビッグデータ等を活用して人の行動や心身機能を計測し、子供や高齢者が安全な生活を継続するための技術を研究。子供の事故予防についても長年にわたって取り組んでいる。
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